専任講師から
こども発明教室の40年を振り返って
「こども発明教室」専任講師 木村 和久
昭和54年7月1日、日本発明振興協会「こども発明教室」の第1回開室式が、日本発明振興会館2階の会議室で行われた。同年3月に講師の委嘱、科学技術庁・東京都教育委員会後援名義の手続きを、4月に講師・運営委員による年間運営についての協議を行い、それにあわせて教室の設備や工作材料・工具類の整備を行っている。また、児童・生徒の募集も行われている。
ここでは、「未来教育には、人間社会、特に科学の爆発的な進歩・激変に力強く対応する能力を身につけるとともに、柔軟な発想にもとづくアイディアを積極的、かつ具体的に実現していく基礎的な能力を身につけることが切望されている。」といった趣旨が述べられている。このことは、初代専任講師の児矢野吉松先生(昭和54年度~平成14年度)が常に口にしていらした言葉でもある。この思いは、2代目専任講師の厚地大司先生(平成15年度~27年度)に引き継がれ、そして現在に至っている。そのため、
① 身の回りの材料を活用して興味あるものを自分で作る活動を通して、子供たちの豊富な発想を育てる。
② 子供たちのアイディアを実現する工作活動を通して、生まれもった創造性を十分に伸長させる。
③ 豊富な発想を実現し創造する喜びを通して夢をもった豊かな人間の育成に努める。
という仮説を、適切な場と機会と材料の用意をし、子供に目標をもたせ、自分の考えを自分の力と方法で解決するように支援していくことなどを通して、実現させていこうとしていることも、40年間、不変のことである。
日本発明振興会館の地下1階にある本教室は、平成2年5月に当時のこども発明教室運営委員長であられた、持田 英氏のご援助により設備が充実され、より機能的な教室に生まれ変わった。また、平成30年4月に照明がLED化され、室内がより明るくなった。子供用作業机の天板は、平成26年度の開室前に張り替えが行われ現在に至っている。
開室当時、参加費は無料であった。ただし、材料費として1000円を徴収している。平成24年度から「材料費を含めた参加費」という形になり、平成30年度現在の徴収額は、7000円になっている。
指導計画では、第1期「基礎指導・アイディア工作」、第2期「夏期集中教室・アイディア工作」、第3・4期「アイディア工作・夢の実現」については大きな変更はないが、それぞれ改良・工夫が行われている。
基礎指導では、初期の頃は「モーターやプーリーを使った車作り」を行っていたが、厚地先生の頃から、「工具の名前とのこぎりの使い方」「釘うちともくねじのとめ方」「電動糸のこと電動ドリルの安全な使い方」「はんだごての扱い方」の4つの項目を4つのグループに分かれた子供たちがローテーションをして体験をする基礎技術講座や、かまぼこの板を活用した「やじろべえ作り」が導入された。また、信号機作り(3年生)やミシンのボビンをコイル作りに活用した「ボビンモーター作り」も行われるようになった。このボビンモーター作りにおいては、運営委員の方々からの多大なる支援のもと行うことができている。ボビンとアルミ棒の軸を結ぶ鉄製の部品、回転する電気子や磁石を取り付けるアルミ板、ブラシになる銅板など、すべて特注による多くの部品を寄贈していただいているのである。
第2期の夏期集中教室では、平成5年度よりIC教室が開始された。この年は都立工業技術センターに講師を依頼して行われたが、翌年から内部講師により指導が行われるようになった。取り組んだ作品は「脱出ゲーム(いらいら棒)」と「電子ピアノ」であったが、メーカーの都合で「オルゴールこま」「ミニグランドピアノ」となった。また、経験者は、「脱出ゲーム」と「メカカメⅡ」を作るようにしたが、平成30年度より「電子サイコロ」と「AM/FM DSPラジオ」を作るようになった。なお、電子ピアノは、名称(現在は「ミニグランドピアノ」)や内容をリニューアルしつつも今日に至っている。
第3期には、唯一の屋外活動である「グライダー大会」が行われるようになった。はじめはゴム動力でプロペラを回して飛ぶゴム飛行機であったが、ゴムカタパルトにより飛ばすグライダーに変わった。二子玉川の河川敷公園で行うことや飛行時間を競うことは変わっていない。毎年、100名近くが参加し、自作のグライダーの飛行時間を競っている。厚地先生の頃から、電車に乗って行く途中にグライダーが破損しないようにと、専用の箱を各自用意するようになった。なお、当日が雨天の場合は、延期または中止にしていたが、アイディア工作の年間日数確保を考え、平成29年度から教室内でのミニグライダー大会を開催するようになった。大会終了時には、参加者全員に参加賞が配られ、さらに上位10位までの子供に、順位によりそれぞれ賞品が贈られている。
年に1回の保護者の会も第3期に開催される。毎回20名前後の保護者の皆さんに参加していただき、いろいろな意見をいただく有意義な会となっている。
第4期では、子供たちのアイディア作品の審査会が行われる。教室の机いっぱいに子供たちの作品が並ぶ。その中から役員の方々や講師たちが優秀作品を選出していく。そして、2月の修了式を迎える。修了式は、初めのころは本会館の2階会議室を会場としていたが、参加者の増加により、本会館近くにある「JAM金属労働会館」のホールを借用して行うようになった。
近年の防災意識の高まりを受け、平成15年度より避難訓練を年に1回行うようになった。大地震や火災時の避難のしかたを理解させるためである。地下1階にあるこども発明教室には、ふだん使用している階段の他に非常階段がある。その位置を知り、実際に駐車場に出てみることは、いざという時に必要なことである。平成30年度は、9月1日・2日に行った。ちなみに本教室の一時避難場所は、渋谷区立鉢山中学校、及び「渋谷区文化総合センター大和田」となっている。なお、緊急災害時用の食料品や飲料水が本会館地下2階の倉庫に備蓄されている。
子供たちのアイディア作品であるが、毎年150~200点の作品が提出されている。少なく見積もっても延べ6000点以上にもなる。しかしながら、40年間、まったく同じ作品というものは無い。子供たちの無限の発想力には、常に驚かされている。ただ、大きな傾向として、初期~中期は、ワンタッチハンガーや万能洗浄機、各種測定機など生活の中にあると便利な物や、重油回収船や発電機や地震計など、みんな(社会)のためになる物、心臓模型や星座版など科学の学習にあると便利な作品などがかなり多く見られた。最近はおもちゃやゲームなど自分が楽しむ作品が増えてきているように思える。これも、時代の流れなのかもしれない。また、モーターにギアを取り付けて作動させる作品の割合はたいして変わらないものの、クランク軸やプーリーを組み合わせて作動させる作品の割合が減る傾向にある。さらに段ボールを使用する作品が減り、べニヤ板などをはじめ木材を使用する作品や、これまでより大型の作品が増えてきている傾向にある。
「不易と流行」ということがよく言われているが、時代が移り変わっていっても、また子供の姿勢・生活が変わっていっても、「子供の創造性を育む」という大目標は決して変わるものではない。これからも、こども発明教室の趣旨・仮説の実現に向かって進んでいきたい。
(こども発明教室40周年記念誌 「こどもたちの無限の発想力」 平成31年3月31日発行 から)
「こども発明教室」専任講師 木村 和久
昭和54年7月1日、日本発明振興協会「こども発明教室」の第1回開室式が、日本発明振興会館2階の会議室で行われた。同年3月に講師の委嘱、科学技術庁・東京都教育委員会後援名義の手続きを、4月に講師・運営委員による年間運営についての協議を行い、それにあわせて教室の設備や工作材料・工具類の整備を行っている。また、児童・生徒の募集も行われている。
ここでは、「未来教育には、人間社会、特に科学の爆発的な進歩・激変に力強く対応する能力を身につけるとともに、柔軟な発想にもとづくアイディアを積極的、かつ具体的に実現していく基礎的な能力を身につけることが切望されている。」といった趣旨が述べられている。このことは、初代専任講師の児矢野吉松先生(昭和54年度~平成14年度)が常に口にしていらした言葉でもある。この思いは、2代目専任講師の厚地大司先生(平成15年度~27年度)に引き継がれ、そして現在に至っている。そのため、
① 身の回りの材料を活用して興味あるものを自分で作る活動を通して、子供たちの豊富な発想を育てる。
② 子供たちのアイディアを実現する工作活動を通して、生まれもった創造性を十分に伸長させる。
③ 豊富な発想を実現し創造する喜びを通して夢をもった豊かな人間の育成に努める。
という仮説を、適切な場と機会と材料の用意をし、子供に目標をもたせ、自分の考えを自分の力と方法で解決するように支援していくことなどを通して、実現させていこうとしていることも、40年間、不変のことである。
日本発明振興会館の地下1階にある本教室は、平成2年5月に当時のこども発明教室運営委員長であられた、持田 英氏のご援助により設備が充実され、より機能的な教室に生まれ変わった。また、平成30年4月に照明がLED化され、室内がより明るくなった。子供用作業机の天板は、平成26年度の開室前に張り替えが行われ現在に至っている。
開室当時、参加費は無料であった。ただし、材料費として1000円を徴収している。平成24年度から「材料費を含めた参加費」という形になり、平成30年度現在の徴収額は、7000円になっている。
指導計画では、第1期「基礎指導・アイディア工作」、第2期「夏期集中教室・アイディア工作」、第3・4期「アイディア工作・夢の実現」については大きな変更はないが、それぞれ改良・工夫が行われている。
基礎指導では、初期の頃は「モーターやプーリーを使った車作り」を行っていたが、厚地先生の頃から、「工具の名前とのこぎりの使い方」「釘うちともくねじのとめ方」「電動糸のこと電動ドリルの安全な使い方」「はんだごての扱い方」の4つの項目を4つのグループに分かれた子供たちがローテーションをして体験をする基礎技術講座や、かまぼこの板を活用した「やじろべえ作り」が導入された。また、信号機作り(3年生)やミシンのボビンをコイル作りに活用した「ボビンモーター作り」も行われるようになった。このボビンモーター作りにおいては、運営委員の方々からの多大なる支援のもと行うことができている。ボビンとアルミ棒の軸を結ぶ鉄製の部品、回転する電気子や磁石を取り付けるアルミ板、ブラシになる銅板など、すべて特注による多くの部品を寄贈していただいているのである。
第2期の夏期集中教室では、平成5年度よりIC教室が開始された。この年は都立工業技術センターに講師を依頼して行われたが、翌年から内部講師により指導が行われるようになった。取り組んだ作品は「脱出ゲーム(いらいら棒)」と「電子ピアノ」であったが、メーカーの都合で「オルゴールこま」「ミニグランドピアノ」となった。また、経験者は、「脱出ゲーム」と「メカカメⅡ」を作るようにしたが、平成30年度より「電子サイコロ」と「AM/FM DSPラジオ」を作るようになった。なお、電子ピアノは、名称(現在は「ミニグランドピアノ」)や内容をリニューアルしつつも今日に至っている。
第3期には、唯一の屋外活動である「グライダー大会」が行われるようになった。はじめはゴム動力でプロペラを回して飛ぶゴム飛行機であったが、ゴムカタパルトにより飛ばすグライダーに変わった。二子玉川の河川敷公園で行うことや飛行時間を競うことは変わっていない。毎年、100名近くが参加し、自作のグライダーの飛行時間を競っている。厚地先生の頃から、電車に乗って行く途中にグライダーが破損しないようにと、専用の箱を各自用意するようになった。なお、当日が雨天の場合は、延期または中止にしていたが、アイディア工作の年間日数確保を考え、平成29年度から教室内でのミニグライダー大会を開催するようになった。大会終了時には、参加者全員に参加賞が配られ、さらに上位10位までの子供に、順位によりそれぞれ賞品が贈られている。
年に1回の保護者の会も第3期に開催される。毎回20名前後の保護者の皆さんに参加していただき、いろいろな意見をいただく有意義な会となっている。
第4期では、子供たちのアイディア作品の審査会が行われる。教室の机いっぱいに子供たちの作品が並ぶ。その中から役員の方々や講師たちが優秀作品を選出していく。そして、2月の修了式を迎える。修了式は、初めのころは本会館の2階会議室を会場としていたが、参加者の増加により、本会館近くにある「JAM金属労働会館」のホールを借用して行うようになった。
近年の防災意識の高まりを受け、平成15年度より避難訓練を年に1回行うようになった。大地震や火災時の避難のしかたを理解させるためである。地下1階にあるこども発明教室には、ふだん使用している階段の他に非常階段がある。その位置を知り、実際に駐車場に出てみることは、いざという時に必要なことである。平成30年度は、9月1日・2日に行った。ちなみに本教室の一時避難場所は、渋谷区立鉢山中学校、及び「渋谷区文化総合センター大和田」となっている。なお、緊急災害時用の食料品や飲料水が本会館地下2階の倉庫に備蓄されている。
子供たちのアイディア作品であるが、毎年150~200点の作品が提出されている。少なく見積もっても延べ6000点以上にもなる。しかしながら、40年間、まったく同じ作品というものは無い。子供たちの無限の発想力には、常に驚かされている。ただ、大きな傾向として、初期~中期は、ワンタッチハンガーや万能洗浄機、各種測定機など生活の中にあると便利な物や、重油回収船や発電機や地震計など、みんな(社会)のためになる物、心臓模型や星座版など科学の学習にあると便利な作品などがかなり多く見られた。最近はおもちゃやゲームなど自分が楽しむ作品が増えてきているように思える。これも、時代の流れなのかもしれない。また、モーターにギアを取り付けて作動させる作品の割合はたいして変わらないものの、クランク軸やプーリーを組み合わせて作動させる作品の割合が減る傾向にある。さらに段ボールを使用する作品が減り、べニヤ板などをはじめ木材を使用する作品や、これまでより大型の作品が増えてきている傾向にある。
「不易と流行」ということがよく言われているが、時代が移り変わっていっても、また子供の姿勢・生活が変わっていっても、「子供の創造性を育む」という大目標は決して変わるものではない。これからも、こども発明教室の趣旨・仮説の実現に向かって進んでいきたい。
(こども発明教室40周年記念誌 「こどもたちの無限の発想力」 平成31年3月31日発行 から)