発明研究奨励金とは

 
発明研究奨励金交付事業

世に出る前の発明を評価して支援する

 発明研究奨励金交付事業は、未だ商品化されていない技術の段階で有望とみられるものを評価し支援する、いわば“夢を形にする”制度として、開発資金に乏しい中小企業や個人の発明・考案を 実用化する際の経費の一部を補助して、製品化の後押しをすることを目的に、昭和55年度(1980年)に協会の3つ目の柱として創設された。平成22年12月に公益財団法人となってからは、発明普及事業の一つとして「発明研究奨励金交付」事業を位置づけ、今年(平成25年度)で33 回の開催となった。本奨励金は、特許を具体化するための試作研究を補助するもので、交付金額は1件100万円を限度に最大5件までの範囲で交付している。
 平成元年度より日刊工業新聞社、平成13年度より日本弁理士会の後援を得ている、故笹井達二実行委員長によりデザインされたイラストは、今でも募集用ポスタ-、パンフレットに使用されている。募集は5月から7月に行い、その後、審査を行い、例年11月に交付式を協会の会議室で挙行している。
 審査は、28 年間、本事業に関わっている加藤忠郎実行委員長(第 23 回/平成14年度より現在)のもと実行委員会で予備審査を行い、また、審査委員には文部科学省(旧科学技術庁)、(地独)東京都立産業技術研究センター(旧:東京都立産業技術研究所)の研究員、日刊工業新聞社、弁理士、技術士、元大学講師の方々や、平成25年度からは(公社)日本技術士会にもお願いし、審査にあたっていただいている。実績など目に見える成果で評価するのではなく、未だ商品化されていない技術が販売につながるか、未知の技術を審査する点が大変難しいが、専門的かつ総合的な評価となるように努めている。
 応募内容は、中小企業の新規発明や改良技術から日々の改善提案より生まれた主婦のアイデアに至るまでジャンルはさまざまであり、近年、時代の先端をいくようなハイテク技術の応募も少しず つ目立つようになってきた。平成22 年度は財政事情により休止したが、平成25年度(第33回)までに148案件に対して交付し、累計交付額は1億1554万8千円に上る。
 交付先には、半年ごとの中間報告、完了後の完了報告と、その1年後にも状況報告の提出を求めている。平成17年度からは奨励金の交付を受けた先を実際に訪問し、開発の現場を視察するフォロー調査を実施し、交付金が効果的に使用されているかの確認、製品化などで困っていることがあれば相談に応じると共に、販路開拓につながる情報提供などのアドバイスやフォロ-アップを行っている。

奨励金 と当人の努力で製品化に成功
さらなる成果に!!

 本事業が30周年(平成21年度)を迎えた際に実施した発明研究奨励金交付事業に関するアンケートでは、過去に交付を受けた方々から「奨励金を受けた実績が評価され、企業の利益につながった」「その後の企業発展に貢献した」など、交付金が役立てられた回答が多数あった。
 この10年間で特筆すべき2,3例を挙げれば、発明研究奨励金交付事業で発掘され開発に成功した技術が、発明大賞受賞へと大きな飛躍を遂げた松岡玄五氏(湿式スプリンクラーシステム/第24回 平成15年度被交付者)は文部科学大臣表彰と黄綬褒章、(株)ケミカル山本の山本正登氏(銀の変色除去方法、銀の変色除去装置、第20回 平成11年度、ステンレス鋼の溶接時に発生するヒューム並びにスラグの無害化方法、第26回 平成17年度被交付者)は文部科学大臣表彰、黄綬褒章、叙勲の栄に浴している。
 他にも、小松文人氏(同期モータ/第24回 平成15年度被交付者)、(株)静科(通気性サンドイッチパネルの製造方法及びサンドイッチパネル/第27回 平成18年度被交付者)、二藤パルテック(株)(戸車フレームの製造方法/第28 回 平成19年度被交付者)が製品化を成し遂げ飛躍している。小松文人氏は、モータが契約に至って一区切りついたとして、後進の方々のためにと、自身が交付された奨励金と同額の100万円を協会に寄付してくださった。
 このように「発明研究奨励金交付事業」は、日本発明振興協会の発明研究奨励基金の果実によって運営されている。すなわち「発明」を志す当協会の会員(中小企業経営者)が、発明の振興・奨励のために提供する浄財を元にして成り立っている。貴重なお金であると同時に、是非とも完成させ製品化していただきたいという願いも込められた交付金である。交付限度額100万円の多少は開発規模により異なるが、有効に活用されるよう、中間報告、完了報告の提出を求めている。また、当協会の発明研究奨励金が交付された実績から、信用が高利、銀行の融資や国の助成金の審査などで有利に働いている例も見受けられる。特許を取得し、製品化して販売までにつなげるのは大変難しいことであるが、今後もますます、一つでも多くの発明・考案が奨励金の交付を受けたことにより、製品化、そしてさらにその次のステップへと進み、発明大賞を受賞するような技術、さらに国から評価されるような功績へと発展していただきたいと願ってやまない。

(平成26年1月20日発行 日本発明振興協会創立60周年記念誌より)